麴(こうじ、麹、糀)とは何か、麹及びそこから造る発酵食品(甘酒、塩麹、味噌、清酒)にはどんな機能性があるか 


佐賀大学 教授 北垣浩志



学術的に正確な情報をまとめました。


(1) 麹の歴史
麹は穀物のデンプンを分解(糖化)するために、穀物にカビである麹菌を蒸した米に生やしたものです。麹菌が酵素を生産し、この酵素がでんぷんの単糖(ブドウ糖)への分解(糖化)を助けます。

こうした麹を使った酒、醸造食品の製造の源流は中国にあり、その後日本に渡来して独自の発展を遂げたと考えられ、それは古書に多くの記述を見ることができます。
最も古いものでは、紀元前667年に編纂された、中国最古の書物である書経に既に麹の記述がみられます。殷の高宗が臣下の傅説を酒や醴をつくるのに欠かせない麴蘖のようだと評したとあります。蘖とはもやし(発芽した穀物)の意味であり、このことから米や麦の穀物を発芽させさらにカビを生やして糖化酵素を生産させていたものだと思われます。ただし、現在も日本で種麹業の会社を「モヤシ屋」と呼ぶように、その境目はあいまいなのかもしれません。その後中国では麹は漢字が簡略化し、読みは「きょく」で漢字は「曲」と記述されるようになっています(日本での麹の音読みは「きく」)。その後、紀元後531年の斉民要術には詳細に麹の製造方法が記載されています。紀元後1116年の北宋代に編纂された「北山酒経」には、酒造法が完成したことが見て取れます。

 日本での麹の起源は定かではありませんが、日本最古の稲作遺跡である2700年前の佐賀県・菜畑遺跡には精巧な精米器具が出土していることから、精米され麹菌の生えることのできる貯蔵米の状態はこの時期には出現していたと思われます。紀元後717年の 「播磨国風土記」に「神に捧げた強飯が濡れてカビが生えたのでこれで酒を造った」との記述があるので、このころからカビを使った酒造りは行われていた可能性は高いです。紀元後927年(延長5年)に撰修された「延喜式」巻40には、麹の製造方法やそれを使った酒造りの技法が詳しく記載されており、現在とほぼ変わらない技術がこのころには完成していたことがわかります。ただし、麹歩合28~41%と現在よりも高く、麹の酵素力価は充分でなかったことがうかがわれます。

延喜式には「造酒司」(みきのつかさ)という酒造りの官職が記載されており、天皇即位の際の大嘗祭(だいじょうさい)でも神酒を造る儀式があることから、宗教的な儀式として初期朝廷で麹を使った酒造りが行われていたことは充分に考えられます。
紀元後931-938年(承平年間)の編纂された和名類聚抄(当時の辞書にあたる)には麹、味噌、醤油の記載があり、この頃には麹の使用が一般化されていました。
紀元後1141年には現在も現存している清酒製造業(須藤本家、茨城県)が現れることから、麹を使った大規模な産業的な生産がこの頃始まっていたと思われます。紀元後1246年には麹を造る専門業者である麹座の紛争である文安の麹座紛争が記載されていることから、麹の技術を一子相伝で伝える麹座がこの頃には成立していたと思われます。麹座紛争を経て、麹は専門業者ではなく、各醸造蔵が自前で造るようになりましたが、やはり麹座で造られた麹を使い続ける醸造蔵もおり、それらは現在も種麹業として存続しています。その後奈良、京都の有力神社で造られていた室町時代を経て、江戸時代に灘伏見における酒造業者の興隆があり、明治時代に東京帝国大学で麹菌が同定され、全国に麹の技術が普及していき現在に至ります。
 世界の食用カビとしては、フランスでカマンベールチーズおよびブルーチーズの製造に用いられるカビの一種ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)、貴腐ワインの製造に使われるボトリティス・シネレア(Botrytis cinerea)、中国南部や琉球王国で用いられる紅麹菌Monascus anka、インドネシアでテンペの製造に使われるRhizopus oryzaeなどがあります。中国北部ではRhizopusやMucor, MonascusでA. oryzaeも一部で見出されています。
日本で麹を造るのに使うカビはAspergillus oryzaeあるいはA. luchuensisです。食経験の長さでは日本の麹菌がダントツで最も長いと言えます。

(2) 麹、麹を使う発酵食品(甘酒、味噌、塩麹、濁り酒など)の機能性
 上記のように麹には日本で長年の食経験があり、その間日本人は健康であったことから副作用がないことは確実であり、米国FDAによってもGRAS (Generally Regarded As Safe)と認定されています。実際に麹食品を食べると体の調子がよくなったと感じた人も多いのではないでしょうか。
 麹は味噌や醤油、甘酒、日本酒、お酢、黒酢などほとんどの日本の発酵食品に含まれていますから、麹の機能性は同時にこれらの機能性として期待してよいことになります。
 実際に動物実験で、麹は腹部の脂質と血中LDLコレステロール、血糖値を減らす、筋肉の抗酸化性を増やす、筋肉分解を抑える、肝臓の抗酸化性ビタミン・トコフェロール・不飽和脂肪酸の量を増やすと言った効果が報告されています(J. Poultry Sci. 44 (2007)3, 291-296, 48 (2011)3, 201-206, 50 (2013) 3, 242-250; BioMed Res. Int. 2013 (2013), Article ID 594393)。
 では、麹のどの成分が機能性に寄与しているのか?これについての研究は研究者が少ないこともありそれほど多くなく、研究は始まったばかりです。
まず、麹には免疫を活性化するβグルカンが含まれます。βグルカンは免役細胞であるマクロファージ表面のDectin-1に結合し、活性化することがわかっています。免疫力が上がれば風邪やインフルエンザにかかりにくくなり、がんにかかりにくくなるといった効果が期待されます。
 また麹には植物や動物由来の食品には含まれないオリゴ糖が豊富に含まれます。摂食したときに単純な糖は小腸で吸収されてしまい大腸には到達しませんが、オリゴ糖は小腸で吸収されないで大腸にまで到達するので、乳酸菌の餌になり増殖を助けるという効果があります。

 麹には食べ物を分解する酵素力があります。このような酵素力は、これまでは食べると胃腸で分解されて効果がないと考えられてきましたが、食べても腸内細菌を改善する効果があることがラットを使った研究で明らかになっています(Beneficial effects of protease preparations derived from Aspergillus on the colonic luminal environment in rats consuming a high-fat diet. Y. Yongshou, et al., Biomed Rep., 3(5), 715-720 (2015))。
 さらに麹や麹で作る発酵食品、特に甘酒や濁り酒にはセラミドが多く含まれることを我々は初めて明らかにしています(麴で造られる醸造食品のグリコシルセラミド定量手法の検討とそれを用いた定量、日本醸造学会誌、in press (2017))。まず、セラミドは肌の保湿成分そのものであり、これを肌に塗ることで肌の保湿力が向上します。さらに、セラミドやその分解物は食べても肌の保湿力をアップしたり糖尿病の予防効果が期待できる可能性が示されつつあり、今後の研究が期待されています。麹のセラミド由来物質であるグリコシルセラミドには腸内細菌の改善作用があることも我々は動物実験で最近明らかにしました(Japanese traditional dietary fungus koji Aspergillus oryzae function as a prebiotic for Blautia coccoides through glydosylceramide: Japanese dietary fungus koji is a new prebiotic. Springerplus, 5(1) 1321 (2016))。
甘酒は麹から作りますが、甘酒には腸管バリア能を向上させる機能があることが明らかにされたので(日本フードファクター学会2016)麹の何らかの成分が腸管を保護している可能性があります。
さらに麹や酒粕には化粧品としても長年使われ、化粧品としての機能もあることが明らかになりつつあります。
麹には麹酸が含まれ、美白効果があるので、化粧品などに活用されています。一時期安全性が懸念されたことがありましたが、その後の研究で通常使う量ならば安全性に問題ないことが証明され、現在は問題なく使われています。麹は長年化粧品として使われてきましたから、当たり前と言えば当たり前です。この麹セラミドは肌のバリア機能もアップすることを当研究室は東洋新薬との共同研究で明らかにしています(2016年日本生物工学会)。
このように動物実験レベルの麹の機能性はデータが蓄積しつつありますが、ヒトを使ったコホート研究、ランダム化比較試験はまだほとんどなく、今後の研究が待たれます。ただし長年の食経験があることから、少なくとも安全であることは間違いないと考えられます。
 今後こうした研究が進んでいくことで、麹の機能性が明らかになり、より日本のそして世界の健康に貢献していくことが期待されます。日本人の平均寿命は世界トップレベルであることから、長年食べ続けることで未知の機能性がある可能性もあり、今後の研究が期待されるところです。

文責:佐賀大学 教授 北垣浩志
謝辞:醸造学に関するご指導をいただき、醸造学に関する膨大な書籍を寄贈いただいた元日本醸造協会、日本醸造学会・会長・秋山裕一先生、麹や酵母に関する大所高所からのご指導、ご示唆をいただいた東京大学名誉教授、日本薬科大学教授の北本勝ひこ先生に心から感謝申し上げます。

佐賀大学 北垣研究室 HPへ